高齢者と車の事故
最近では、高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違いの事故と言う報道が、毎日と言ってもいいぐらい流されますね。
数か月前なのですが、私自身ゾッとする事故を見ました。
なんと自動車の免許試験場の大きな玄関にドカンとぶつかっている自動車があったのです。その場にいた人の話を聞くと、どうやら運転者は高齢の男性(80代)。配偶者である妻を乗せて運転してきたとの事。
後で聞いた話によると、男性がそこに来た理由は「免許返納」の為の相談だったらしいのです。しかも免許返納をしようと思ったきっかけは、妻が(事故を起こした人)が、「もう高齢だし、今から何があるか分からないから免許は返したほうがいい」と言ったから。と言う理由だそうですから、何とも皮肉な話です。
事故の原因はやはりブレーキとアクセルの踏み間違い。やはり高齢になると判断能力が鈍る事は間違いないようです。
まあ、試験場はたまたま昼休みだったという事で、人気も少なくけが人はいなかったという事が不幸中の幸いでした。
さて、今まさに自分自身で、そろそろ免許を返したほうがいいのかなあ、なんて考えている人もいらっしゃるのではないでしょうか。
考え始める時期としては、70代~が多いそうです。そのぐらいの年齢になると、自分で何となく若い頃とは違う・・と感じてくる時期化のかもしれません。
さて、本来ならじっくり考えて、その上で免許を返納するのかしないのかは自己判断に任されます。
ただ、自己判断が出来ない人もいますよね。認知症者(運転ができるのは、軽度認知症者)です。
免許返納しない人で、一番怖いのは「認知症の人が運転する事」じゃないでしょうか。
もし、認知症の方が事故を起こした場合、誰が責任を取らねばならないかご存知でしょうか。
はい、認知症があるご本人は、「責任能力が無い」と見なされるため、直接的な罰や損害賠償は生じません。
その代わり、監督義務者(家族の場合が多い)が責任を負わねばなりません(民法第17条)。
例えば、家族がちょっと目を離したすきに、認知症者が運転して事故を起こした場合は、「ちゃんと監督していなかった」「運転を止められなかった」家族に責任があるとみなされるのです。
そこで家族は、もう車に乗らないように一生懸命に説得したり、車のカギを隠したりするんですけど・・。
ただ、中には「何で車に乗ったら行かんのか!!」と激昂して暴れたり、家族が寝静まったころにこっそり運転してみたりされるケースが多いので、家族も悩んでいらっしゃることが多いんですよね・・。
なぜ運転を止められないのか
ではなぜ、高齢の皆様は車の運転を止められないのでしょう。
それにはいくつかの原因が考えられます。
1,車しか移動手段が無い(やむを得なく)
2,自分は運転がうまいと思っている
3,車を運転する事こそが、家族の為になっていると考えている
4,自分でも不安には思っているが、それを認めるのはプライドが許さない
1,車しか移動手段がないの場合は、認知症者でなくとも悩むところです。
自分自身では、もう免許を返納したく思っていても、田舎暮らしで交通網が整備されていない場合は、どこに行くにも不便になります。電車もバスも無く、買い物に行く毎にタクシーを使うとなると、家計が苦しくなりますよね。
どうしたらいいか分からない、そんな状況で「おじいちゃん、免許返納しなよ」はキッツいっですよね。簡単に了承できるはずもありません。
そこで、免許を返納してもらうには、それに代わる何かが必要になります。
代わる何かについては、後で書きたいと思います。
2,自分は運転がうまいと思っている。これは意外と多いんですよ。
「俺が事故を起こすはずがない」タイプですね。だから、何で免許を返納しなくてはならないのかが分からないんです。
なんと、80代以上の男性の80%近くが運転には自信があるという事です。
うちの旦那もまだ若い頃、任意保険に入っていませんでした。入れって言っても拒否。その理由が「俺は失敗しないから」どこかのドラマの決め台詞のようです。まあ、それが本当だとしても、あちらからぶつかってくる場合があるって事、考えられないんでしょうか。・・ええ、考えられないんです。
うちの旦那の場合、車間距離を詰めすぎて前の車にぶつかりました。まあ軽くぶつかったぐらいですので、お互いにケガはありませんでしたが、車の修理費がかかります。そこで旦那「お金かして。払えない」等と言いますので、鼻で軽く笑って無視してやりました。はい、今ではちゃんと保険に入っています。良かった良かった。
じゃ、ないですね。そう言う人困るんですよね。特に認知症になると、車をぶつけても忘れちゃいますからね。
今newsで話題の高齢者の事故、あれの大半が「運転に自信があった」人ですから驚きです。
そういう人に「あなたは運転が下手なんですよ」と家族が教えても喧嘩になるだけでどうにもなりません。そう言う場合どうするかですが、例えば運転者が信頼している人物に協力をお願いします。
例えば、主治医。頑固なお爺ちゃんでも医師の言う事なら聞く、みたいなパターンもあるかと思います。
医師に「あなたは、緑内障があるから運転は危ないよ。そろそろ免許返納しないとダメだよ」と言ってもらうとか、友達に「お前の運転は怖くなったな~。ふらふらしてるぞ」言ってもらう等、家族以外の誰かに言ってもらうのが良いと思います。
3,車を運転する事こそが、家族の為になっていると考えている
特に「お爺ちゃん」に多いんですが、若い頃から車を運転していて、奥さまが買い物に行くとき、病院に行くとき、子供や孫の送り迎えをする時、「車お願い」「乗せて行って」と言われる事に生きがいを感じていたというパターンが多いそうです。
そういう人が「免許返納」をすすめられると、そこから先は「家族の為にできることが何もない」と言う状況に陥り、がっかりするのだそう。恥ずかしくて悔しくて、もう私は家族のお荷物だと思い、うつ状態に陥る。
そんなことは避けたいですね。
こういう場合の人には、まず免許が無くても十分に家族にとって役に立ってもらっているという事を、教えてあげてください。何でもいいのですが、例えば何らかの仕事を任せて「ああ、やっぱりお爺ちゃんがいないと」とか「おばあちゃんでないとこれは無理ね」等と言い、日々頼ってあげてください。
すると徐々に、私は運転しなくても、家族として十分に認められているんだ、と少しずつ分かってきてくださいます。
4,自分でも不安には思っているが、それを認めるのはプライドが許さない
認知症者に最も多いのがこのパターンだと思います。
運転をする際、何か昔とは違うというのは、実は本人にもわかっています。しかし、自分自身でそれを認めてしまうと怖いんです。また、自分が不安に思っていることを家族に指摘されてしまうと怒りに代わります。
冷静に考えれば、自分がおかしくなっているんだと思えるはずですが、認知症と言う病気の為に、しっかり考えることが難しくなっています。
そういう時、家族はどうしたらいいのでしょう。
何度も車に乗らないように説得するという事も良いですが、怒りが増して暴言暴力につながる事もあります。
認知症と言えど、プライドはありますからね。
鍵を隠したり、車自体を処分したりすることも間違いとは言えないのですが・・、以前私の家に近所のおばあさん(あんまり面識がなかった)が「車のカギを貸してください」と来られました。どうも家族がカギを隠されたみたいでした。「申し訳ないのですが、貸せません」と言うと、「じゃあ、私のカギを返してください。娘の家に行きたい」との事。
いろいろ突っ込みどころがあったのですが、とりあえずそのお婆さんのご自宅まで一緒に行って、「娘さん」に「娘さんの家に行きたいそうです」とお伝えしたら、ほとほと困っていらっしゃいました。・・と言う事もありますので、とりあえず鍵を隠したらOKと言う事でもなさそうですね。
まあ、その家庭の全部の車を処分してしまえば、運転は出来なくなりますので、そこまで徹底すればいいのでしょうけど、そうなると家族も困ります。
やはり、医師にもう車に乗らないよに伝えてもらう等がいいかもしれませんね。
でも、くれぐれもプライドを損ねるような声掛けはしないでください。
免許返納後、自動車の代わりになる乗り物
さて、何とか説得し、免許返納して運転は辞めてくれた。でも、そのままでは生活は困難になっていると思います。
自動車の代わりになる乗り物
A: 電動アシスト自転車
B: 電動車イス
C: シニアカー
D: 鉄道、バス
E: コミュニティーバス
F: タクシー
G: 家族の運転する自動車
A: 電動アシスト自転車は、シニアの方でも楽な力で乗れる便利な乗り物です。まあ、自転車が乗れない方には難しいのですが、高齢者でも安定して乗れる三輪の自転車等もあり、最近ではよく見かけるようになりました。
また自動車と比べて、自分の力を使いますので、健康の為にはいいですし、お勧めの乗り物です。
ただ、昔は電動自転車と言うと、そこそこお金を持っている人が乗るものだという「高価な」もののイメージでしたね。安いものでも、10万~ ちょっといいものだと20万近くしました。
免許返納して自転車に乗ろうとしたはいいけど、お金がかかるなあ・・。
なんて事で断念する人も多かったのですが、最近では10万も払わずとも十分丈夫で便利な自転車もあるようですし、一度考えてみられると良いかと思います。健常者か、軽度認知症の方向けですね。
B:電動車いす
その名の通り、電動の車椅子です。
手でこぐのではなく、手元のジョイスティックで操作します。自転車に乗れない人や足の不自由な方にはお勧めの乗り物です。
また、車椅子は歩行者と同じ扱いですから、スーパーマーケットなどにも乗ったまま入れますので便利です。
ただし、車椅子ですからスピードは出ません。
購入となるとちょっとお高めですが、介護度2~のかたは、介護保険を使ってのレンタルもできるようです。
C:シニアカー
最近は、すごいおしゃれなものやかっこいいスタイルのものも沢山出ていますよね。見た感じはバイクみたいな感じのするものまであります。いろいろな機能も付いていますし、何より安全です。
時速は6kmまでに制限されていますが、近所を走行するには十分だと思います。
免許返納されている方の多くがシニアカーを検討されています。
ただ、ちょっと高額かもしれません。
D:鉄道・路線バスなど
ただ、上記の物は、やはり「近所」へ移動する為の物です。
隣の県まで、病院に‥などの場合はちょっときついですよね。
そこで、鉄道や路線バスが必要になります。
実は、免許を返納すると「運転経歴証明書」がもらえます。それを提示すると割引を受けられるという事もあるようですので、一度お問い合わせになると良いかもしれません。
E:コミュニティーバス
コミュニティーバスとは、住んでいる地域をぐるぐる回る、主に行政が運営しているあの小さなバスの事です。
市役所や、大きな病院、スーパーマーケットなど主要な場所に立ち寄ってくれますので、便利です。また、地域によっては行く場所、降りる場所のリクエストに応えてくれることもあります。
また「運転経歴証明書」でバスの運賃が半額になったり数ヶ月運賃免除になったり等されていることもあります。
F:タクシー
高い!のイメージのタクシーですが、地域によっては「運転経歴証明書」で割引が効く所もあります。
また、たまにしか乗らないのであれば、維持費のかかる自家用車よりもお得かもしれません。
呼んだら自宅まで来てくれて、目的地まで送ってくれるというサービスは、当たり前のようでいて最も便利です。
特別な場合(買い物などの普通の生活で使う以外の場合、市役所に書類を持って行くなど)には、介護保険が使える介護タクシーにも乗れます。介護保険を利用しなくても、介護タクシーは使えます。
G:家族が運転する自動車
高齢者様と家族が同居していて、自動車を保持されている場合は一番使う移動手段でしょう。
ただし、たまにならいいのですが「今日は買い物して、その後友達の家に遊びに行くから車出してくれ」「明日は病院に行って、カラオケクラブに・・」なんて毎日のように使われますと家族は疲弊してしまいますし、その他の仕事が出来なくなりますよね。
まあ、無理のない範囲でほどほどにと言った感じでお願い致します。
やっぱり免許返納いたしません‥と言う場合
とかなんとか書いてきましたが、どれを試してもダメ。
家族や医師が説得しても、絶対に運転はやめないぞおおおおおおお!!みたいに力が入っている人がいますね。
そうなるともうお手上げです。
認知症検査で引っかかった人や、判断ミスで事故を起こした人などは、もういっそのこと全員免許証を取り上げてくれないかなとも思いますが、まだ日本の制度的にはそこまでは行ってないようです。
じゃあ、もう運転させるしかない。でも家族はいつも冷や冷やしているという事ですよね。
ではせめて、少しでも事故を減らせるような何かがあれば‥と言う事で、ちょこっとアドバイスです。
1,まず、高齢者ドライバーの車に同乗した場合、余計な話や声掛けはしない事、です。
若い同乗者でもいますが、「え、そこの道を通るの?」とか「もうちょっと素早く曲がったほうが良くない?」等の無駄なアドバイスを運転者にしてくる場合がありますよね。あれって、イライラしませんか?集中力も途切れるし、黙って乗ってろって感じになりますよね。
高齢者の場合はより一層その状態が強まります。
「お爺ちゃん、次の角を右よ。右だからね?分かってる?」「分かってるよ!うるさいな!」ガシャーン!みたいな。
また、ドライバーが運転に集中している際に、急に「あ、味噌買うの忘れた!!」等と同乗者が発言すると、注意がそちらに向いてしまいます。
そういう際によく事故は起こります。
よって、高齢者の運転する車に乗る場合は、落ち着いて座り、無駄な事は発言しない、これに限ります。
また、黙っていても急にスマホが鳴り出す等でも、びっくりして事故になるそうですから、スマホは念のためマナーモードにしていたほうが良さそうです。
2,高齢者ドライバーが運転した後、家族は車の擦り傷などを確認する事。
いつも通り運転して帰ってきても、よく見ると車の側面に引っかき傷がついているなんてことはよくある話です。
その傷が増えて来たら、強めに運転を止めてもらう方法を考えたほうが良さそうです。近所の人たちにも伝え、もしどこかで車をひっかけて傷をつけていたら、報告してもらうようにしましょう。
近所の人が見たってよと言えば、運転を控えてくれるかもしれません。
3,アシスト付きの自動車に変える
どうしても運転を止められないのなら、これも一つの手です。
自動ブレーキがついている、危険を音で伝えてくれる、踏み間違いをしないようにしてくれる(急発進防止装置)等の自動車が販売されています。
そういう車に乗れば、事故が軽減できます。
ただし、絶対に事故が起きないわけではありませんので、ご注意くださいね。
まとめ
以上、高齢者の自動車運転についてのあれやこれやを書いてきましたが、運転が生活の一部と化している人に、運転を辞めてもらうというのは難しい事であるという事が分かったと思います。
交通網の発達しているような都市なら何とかなりますが、田舎で電車も入っていないような所は、やすやすと免許返納なんてできませんよね。
返納した後、自由に移動できる手段があればいいのですけど、それは今後、行政などにお任せするとしても、家族は高齢者ドライバーをほったらかしにも出来ない。
本人様を交えたご家族で、話し合った末に免許返納されるという話もよく聞きますが、認知症が始まっているとなかなかそれもできませんよね。
ここに長々と書いた割りにはこれをやったらOKと言った解決策が無いのですけれど、なんとか少しでも事故を減らせるようになればいいと思います。
最後に何なのですが、これは例えば、「70歳になったから、皆免許返納しようぜ」って言う事を言いたいわけではありません。
70歳でも80歳でも、無事故無違反で丁寧に運転されている方も多くいらっしゃいます。高齢者と言えど、しっかり運転に向きあっている人は、慣れていない若者より事故は少ないのです。
実は、事故自体は10代が最も多く、次に20代。それから高齢者(80歳以上)の順番なのですよね。
齢をとっても、ちゃんと運転できている人に「免許返納しろ」はひどい話だと思います。
免許を返納すべきかどうかは、まずは家族が高齢者の家族の運転の様子を見て、運転を辞めた際のメリットデメリットを考慮したうえで、本人と話し合って決めていただきたいと思います。
コメントを残す